「SUNFLOWER」

「明るいほうへ」。それが太陽の示す言葉なら、信じて損はないでしょう。人々が素晴らしいと思う世界が、暗い闇の中にあるとは思えませんから。ただし、信じるのは太陽の言葉ではありません。自分自身です。疑いなく自分をどこまで信じることができるか。多くの場合、それが夢を実現できるかどうかのターニングポイントとなってくるものです。何をその手にするのか、最後に決断するのは、やはり自分自身ですから。夢や願いを持っていても、長く暗い闇の中からなかなか抜け出せないのは、きっと、「どうせ無理だから」という諦めの心に支配されているからに違いありません。

日本のきものと同じような危機的状況に陥ったことのある産業はたくさんあります。スイスの時計産業もその一つです。それは、クォーツ・クライシスと呼ばれました。1969年に日本の時計メーカーが発売した世界初のクォーツ式腕時計が、瞬く間に世界を席巻し、スイス時計産業は壊滅的な状況に陥ったのです。この危機的状況は、その後も機械式時計の生産を諦めなかった人々の意志によって乗り越えられ、それ以前にも増して機械式時計のファンが増える結果を導きましたが、ほんとうの復活の理由は未だによくわかっていないそうです。しかしながら、スイスの時計職人の意地と情熱が、クライシスから抜け出す原動力になったことは間違いありません。「スウォッチ」という時計をクリエイトし、復興に貢献した現スウォッチグループ会長のニコラス・G・ハイエック氏は、自らをアーティストだと語り、今も第一線で時計をクリエイトし続けています。彼のような人物こそ、日本のきもの業界には見習って欲しいものです。

今もなお、未だにその活路を見出せているとは言えない着物業界ですが、スイスの時計産業のような変革の芽が、少しずつ起こり始めています。機械式時計が、CDに置き換わったレコードとは同じ運命を辿らなかったように、和服も完全に洋服に置き換わることはないでしょう。それを信じてか、
きものを諦めない業界内の元気な人たちが、新しい取り組みに挑戦しています。たとえば、マーケットインの思考を取り入れた、ある意味当たり前な製造販売のあり方を実践し、成功している方々がたくさん現れているのです。もちろん、同じ取り組みを幾度となく試みても成功したとは言えない事例も過去に数多く見受けられます。それらについては成功事例との違いを十分に比較分析すべきでしょう。また、マーケットインといえども、不必要に消費者嗜好に媚びる必要はなく、個々のカラーとポリシーを持って望むことが重要です。そうしたことも踏まえて、成果をあげている人たちの提供する商品は、手にする消費者にも喜ばれています。こうした理想的とも思える構図を見ていると、業界全体にそうした気風がみなぎらない限り、きものは危機的状況から逸脱できないとも思えますが、すでにそれを業界に期待するのは無理だと決め付ける人も多いようです。それでも、そろそろほんとうに業界をあげてそうした意識を持つしかないでしょう。きものを創出する側の人たちには、いわゆる単なる「きもの作家」ではなく、ハイエック氏のような、自らをプロデュースしてゆける「クリエイター」であって欲しいと願います。そんな人々が創出してゆく製品こそが、本物のブランドと化してゆくに違いないからです。

「明るいほうへ」。一面の花畑は、その鮮やかな色と香りで人の心を癒してくれます。香り高い花々は、どんな名前の人の前でも鮮やかに咲き乱れ、そのお返しに名を問うこともありません。自然が織りなす美しさは、そんな当たり前な世界の中に広がっているものです。美しいだけでなく、たとえば向日葵の花は、秘める花言葉で「あなたはすばらしい」と、眺める人を励ましてもくれます。向日葵のように明るい場所に導いてくれる、そんなきものを作り出して欲しいと願います。心より。



2003年08月26日 掲載
    
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